大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)4371号 決定

申立人 a株式会社破産管財人X1

原告 X2

被告 Y1

被告 Y2

被告 Y3

被告 Y4

被告 Y5

主文

申立人に対して本件訴訟手続を受継することを認める。

理由

第一本件申立ての要旨

原告X2は、a株式会社(以下「a社」という。)の株主として同社の取締役であった被告Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び株主の権利の行使に関して利益供与を受けたとする被告Y5の責任を追及する株主代表訴訟を提起したが、訴えの提起後、a社は破産を宣告され、申立人がa社の破産管財人に選任された。

本件申立ては、本件株主代表訴訟において、申立て人が原告の地位の受継を申し立てたものである。

第二被告Y2及びY4の異議の要旨

一  被告Y2の異議の要旨

1  株主代表訴訟の継続中に会社が破産した場合、当該訴訟は中断し、破産管財人が受継すると解することには理論的な難点がある。

民事訴訟法125条1項は、当事者の破産による訴訟の中断について定めるが、同条項の「当事者」とは形式的当事者を指すと解すべきである。したがって、株主代表訴訟における会社は形式的当事者ではないので、会社が破産しても同条項によって株主代表訴訟が中断することはない。

当事者以外の破産の場合でも中断を認める破産法86条があるが、同条は民事訴訟法125条1項の例外として限定的に認められた規定と解すべきであり、債権者取消訴訟以外の場合に破産法86条1項を類推適用することはできない。

2  破産管財人が株主の地位を受継することには実質的にも難点がある。

株主が提起した代表訴訟に会社が共同訴訟参加又は補助参加した場合、会社が破産すると破産管財人が受継するのは会社の地位であって株主の地位ではない。会社と株主が異なる訴訟活動をしていれば、破産管財人が受継するのは会社が行ってきた訴訟行為のみである。にもかかわらず、たまたま会社が原告株主に共同訴訟参加又は補助参加をしていなければ、破産管財人が株主代表訴訟における株主の地位を受継すると解するのは不合理である。

3  以上のとおり、株主代表訴訟の係属中に会社が破産した場合、当該訴訟は中断し、破産管財人が受継すると解することはできない。よって、本件申立てを却下した上、本件訴訟について原告が当事者適格を失ったものとして、または訴訟が終了した旨が宣言されるべきである。

二  被告Y4の異議の要旨

1  代表訴訟における会社の破産は、民事訴訟法124条が定める訴訟の中断事由のいずれにも該当しない。

また、同法125条1項は当事者が破産の宣告を受けたときに中断する旨を定めるが、同条項の「当事者」には代表訴訟における会社は該当しない。

2  代表訴訟は、会社と取締役との特殊関係に基づく訴訟提起の懈怠可能性から認められたものであるが、会社が破産して破産管財人が選任されれば、そのような訴訟提起の懈怠可能性は消滅するので、代表訴訟は当然に終了すべきである。

3  株主の残余財産分配請求権は、総債権者に対する弁済の後に認められるのであるから、総債権者のために権利を行使する破産管財人と株主は利害が相反する。

4  破産管財人の追行する訴訟も代表訴訟も法定訴訟担当であるが、両者は、その制度趣旨、機能、目的を異にするものであり、両者間に受継関係を生じさせる余地はない。

5  以上のとおり、株主代表訴訟の係属中に会社が破産した場合、当該訴訟は中断し、破産管財人が受継すると解することはできない。よって、本件申立ては却下され、又は本件訴訟は、訴え提起後の訴訟要件消滅の場合として訴えが却下されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  株主代表訴訟は、取締役の責任追及の実効性を確保するため、株主が会社に代位して取締役に対する損害賠償請求権を行使するものであり、債権者代位訴訟とその性質を同じくする訴訟である。

ところで、債権者代位訴訟は、債権者が債務者の第三債務者に対する権利について管理処分権を行使するものであるところ、破産手続の開始後は、破産管財人が総債権者の利益を代表して破産財団の保全、回復にあたることが予定されているものであり、破産者の債権者や株主との関係においても、破産財団の管理処分権は破産管財人が専有するところ、破産財団に属する権利を行使する債権者代位訴訟の原告は、債務者の破産により代位行使している当該権利に対する管理処分権を喪失して当該訴訟にかかる当事者適格を喪失すると解するのが相当である。

次に、原告が当事者適格を喪失した後に破産管財人が訴訟を受継することが認められるべきか、訴訟は当然に終了するかが問題となる。この点、前述のとおり破産管財人は債権者代位訴訟の訴訟物の処分権者であり当該訴訟を継続させるかどうかの判断は、その時点における当該訴訟の状況等を考慮した上での破産管財人の判断に委ねるのが相当なこと、破産管財人が新訴を提起するよりも破産管財人の受継を認める方が訴訟経済に資するといえる面もあることから、債権者代位訴訟において、債務者が破産した場合には、民事訴訟法125条1項、破産法86条1項の準用により中断し、破産管財人においてこれを受継できると解することが相当である。

右に述べたところは、債権者代位訴訟とその性質を同じくする株主代表訴訟にも当てはまるものであるところであり、したがって、株主代表訴訟の訴訟追行中において、会社が破産した場合、当該損害賠償請求権は破産財団に属する権利であるから、会社の破産によって訴訟は中断し、破産管財人においてこれを受継することができると解すべきである。

二  被告Y2の破産法86条1項の準用についての主張は前記説示に照らせば採用できない。

また、被告Y2は、株主代表訴訟に会社が参加した場合で株主と会社が異なる訴訟活動をしていた場合を例に挙げて、破産管財人による受継が不合理と主張するが、複数の訴訟関係人の地位を単一の訴訟関係人が承継することも民事訴訟法の予定するところであり、破産管財人が株主代表訴訟における原告株主と会社の双方の地位を承継することは、双方の主張に相違があったとしても何ら支障がなく、さらには、株主代表訴訟は、破産者である会社以外の者が提起した訴訟であり、原告株主が会社のために最善の訴訟追行を行う保障がないことを考慮すると、同訴訟については、会社が破産した場合でも破産管財人が受継を強制されず、当該訴訟における原告である株主の地位を承継することが不利な場合は、破産管財人は受継を行わず別訴訟を提起することも許されると解することが相当であるから、同被告の主張は失当である。

三  被告Y4の主張2については、会社の取締役に対する訴訟提起の懈怠可能性が消滅したからといって代表訴訟が当然に終了すべきであるとする論理必然性はないので、同被告の右主張は採用できず、同被告のその他の主張についても、前記説示に照らせば採用できない。

四  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅原雄二 裁判官 小林久起 松山昇平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例